秋の工房

パイ生地が織りなす音、秋の工房で

秋の気配を感じる1枚PHOTO / Hisashi OSAKA

冷えた空気と重なるバター、秋の深まりを告げる層のこと

十月に入ると、工房の空気ががらりと変わります。室温が下がり、手で触れる大理石の台がひんやりとし始めると、パイ生地を折り込むいちばん美しい季節の訪れです。

パイ生地(フイユタージュ)をつくるとき、いちばん大切なのは生地とバターの硬さを揃えることです。

夏場の温かい工房では、バターがすぐにやわらかくなり、生地の間から逃げ出そうとしてしまいます。けれど、秋の澄んだ冷気が満ちるこの時期は、冷やしたバターと小麦粉の生地が素直に馴染み、幾重にもきれいに重なっていきます。

延ばしては折り、冷やしてはまた折り重ねる。

三つ折りを何度も繰り返すうちに、生地は数百の層へと姿を変えます。手のひらを通して伝わってくるのは、バターが生地のすきまに均一に挟まっていく独特の反発感と滑らかさです。この感触を手が覚えているかどうかで、焼き上がりのサクサクとした歯ざわりと膨らみ立ちが決まります。


オーブンに生地を入れると、しばらくして工房にパチパチと小さな音が聞こえ始めます。

生地の間に挟まれたバターの水分が熱で蒸気となり、層を押し上げながら弾ける音です。その音と一緒に、焦がしバターの甘い香りが工房全体に広がっていきます。

しっかり焼き切ったパイ生地は、指で触れると儚く崩れるほどの軽やかさがありながら、噛みしめると粉とバターのコクがじんわりと広がります。

アップルパイやミルフィーユ、そしてこれからの季節のお菓子たち。秋が深まるにつれて、このサクサクとした層の重なりが、店内を温かく彩っていきます。